認知、認知の無効の訴え(法改正あり)の重要項目をわかりやすく独学する【民法】
「認知」は、非嫡出子(婚外子)を自分の子であると認めて親子関係を発生させる制度です。非嫡出子に財産を相続させたい場合などは認知をする必要があります。
認知に関する資格試験での出題傾向
H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | |
宅建 | – | – | – | – | – | – | – | – | – | ? |
行政書士 | – | – | – | – | – | – | – | – | – | ? |
司法書士 | – | 〇 | – | – | 〇 | – | – | – | 〇 | – |
「認知」については、宅建試験と行政書士試験では親族・相続法の出題の占める割合が少ないこともあり、過去10年の間に出題はありません。逆に言えば今後いつ出題されてもおかしくないのですが、特に宅建試験は相続法のほうが出題されやすいこともあり基本的には可能性は低いです。
一方、司法書士試験では過去10年で3回出題されており、他にも認知絡みの選択肢が出題されている年もありますので、司法書士試験においては定期的に出題されている内容といえるでしょう。
認知には一部に令和6年改正がありますが、令和5年度の資格試験では改正前(現行)の法律が適用されますのでご注意ください。
重要条文① 認知(民法779条)
第七百七十九条 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
認知の対象は? → 嫡出でない子(非嫡出子)
誰が認知できる? → その子の父又は母
「非嫡出子」とは、婚姻をしていない男女から生まれた子供のことです。その非嫡出子を認知できるのは「父」又は「母」とされています。ただし、母の認知については認知を待たず「分娩の事実」によって母子関係が当然に発生するとの判例がありますので、実質的に認知するかどうかの問題は「父」のみにあるともいえます。(※捨て子の場合などは母の認知もあります。)
その他の認知に関する条文
認知能力 | 父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときでも、その法定代理人の同意を要しない。 |
認知の方式 | ①戸籍法の定めるところにより届出 ②遺言 |
成年の子の認知 | その子の「承諾」がなければ認知不可 |
胎児又は死亡した子の認知 | ①父は胎児を認知可。この場合、母の承諾必要。 ②認知した胎児が出生した場合で、嫡出推定規定によりその子の父が定められるときは認知無効。(※令和6年改正後の追加内容) ③父又は母は、死亡した子でもその直系卑属があるときに限り認知可能。この場合、その直系卑属が成年者であるときはその承諾必要。 |
認知の効力 | 原則:出生の時にさかのぼってその効力を生ずる 特例:第三者が既に取得した権利を害することはできない。 |
認知の取消しの禁止 | 認知をした父又は母は、認知の取消し不可。 |
認知後の子の監護に関する事項の定め等 | 766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)規定を、父が認知する場合について準用。 |
上記の表は、認知に関係する条文の内容です。中でも重要な箇所には色をつけてありますが、まず、認知の効力は出生の時にさかのぼるということです。出生した後に認知されても出生の時から親子であったことになります。
その他、「遺言による認知」や「胎児の認知」などもできます。作家の山崎豊子さんの作品「女系家族」にも出てきますが、遺言によって胎児を認知し、財産を相続させるということもできるわけです。
※胎児を認知し、その子が出生した場合、改正後の内容では嫡出推定によって父を定めることができるときは、その認知は当然に無効となります。
認知の訴え(787条)
第七百八十七条 子、その他の直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。
認知をしてくれない父又は母に対して、子その他の直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、「認知の訴え」を提起することができます。これは「強制認知」あるいは「裁判認知」といわれています。ただし、父又は母の死後三年を経過した場合は訴えは不可となります。※父または母の死後に訴えを提起する場合の相手方は検察官になります。
認知に対する反対の事実の主張(786条)
※現行の条文(改正前)
第七百八十六条 子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。
一度認知をした場合、認知を取り消すことはできません。ただし、「反対の事実」=「無効」を主張することはできます。例えば、認知する気がないのに第三者によって認知の届出がされていた場合などが該当しますが、血縁上の親子関係がないことを知りながら自ら認知をした者であっても、認知の無効を主張できます。
この条文は令和6年に改正がありますので下記に内容を記載します。
ここからは、令和6年改正後の内容となります。
重要条文② 認知の無効の訴え(民法786条)※令和6年改正
※令和6年改正後の条文
第七百八十六条 次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める時(第七百八十三条第一項の規定による認知がされた場合にあっては、子の出生の時)から七年以内に限り、認知について反対の事実があることを理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、第三号に掲げる者について、その認知の無効の主張が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
一 子又はその法定代理人 子又はその法定代理人が認知を知った時
二 認知をした者 認知の時
三 子の母 子の母が認知を知った時
2 子は、その子を認知した者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が三年を下回るときは、前項(第一号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず、二十一歳に達するまでの間、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、子による認知の無効の主張が認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の利益を著しく害するときは、この限りでない。
3 前項の規定は、同項に規定する子の法定代理人が第一項の認知の無効の訴えを提起する場合には、適用しない。
4 第一項及び第二項の規定により認知が無効とされた場合であっても、子は、認知をした者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。
「認知の無効の訴え」が可能(⇔ 認知の取消しは不可)
誰が提起できる? → ①子又はその法定代理人 ②認知をした者 ③子の母
改正前(現行)の条文では「認知に対する反対の事実の主張」となっていましたが、改正後では認知に対する反対の事実があることを理由として「認知の無効の訴え」を提起できるとなり、出訴期間が設けられました。
また、認知の反対の事実を主張できる者は、改正前は「子その他の利害関係人」となっていましたが、①子又はその法定代理人②認知をした者③子の母と確定されています。ただし、③子の母については、子の利益を害することが明らかなときは提起することはできません。
改正によってシンプルだった条文が長くなり複雑になっていますので、できるだけわかりやすくなるよう下記の表にまとめてみました。
提起できる者 | いつから | 出訴期間 |
---|---|---|
子又はその法定代理人 | 認知を知った時 | 7年以内 |
認知をした者 | 認知をした時 | |
子の母(子の利益を害することが明らかなときは不可) | 認知を知った時 |
特例 | |
---|---|
①胎児が認知された場合 | 出訴期間:胎児の出生時から7年以内になる |
②子が、認知した者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回るとき | 出訴期間:21歳に達するまで ※ただし、認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の利益を著しく害する場合は別。 |
③上記「②」の子の法定代理人が提起するとき | 「②」の規定は適用しない。 |
その他、認知が無効となった場合、子は、認知をした者が支出した子の監護に要した費用を返す義務を負いません。これは、嫡出が否認された場合の子(778条の3)と同様の規定です。(子に費用の負担を負わせるのは酷ということでしょう)
認知に関する出題手口の例
(普)認知する父が未成年者であるときは、その法定代理人が認知に同意しなければならない。
× (法定代理人の同意は不要。)