条件・期限、期限の利益の重要項目をわかりやすく独学する【民法】
条件及び期限は、民法総則のうち法律行為に関する条文で、民法127~137条までに規定されています。
条件・期限に関する資格試験での出題傾向
H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | |
宅建 | – | – | – | – | 〇 | – | – | – | – | – |
行書 | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – |
司書 | – | – | – | – | – | 〇 | 〇 | – | – | – |
「条件・期限」は、過去10年、行政書士試験での出題はなく、宅建試験では選択肢の一つとして1回出題されたのみで、民法総則から3問出題される司法書士試験では過去2回の出題があります。試験では問われる機会は少ないようですが、民法の中では基本的な内容の一つと言え、条文の量も多くないため勉強しておいたほうが無難でしょう。
条件・期限とは
条件 | 発生するのが不確実なもの | <例> 運転免許を取得できたら |
期限 | 発生するのが確実なもの | <例> 日付(令和6年1月1日) |
条件・期限とは、法律行為の効力をそれぞれ発生又は消滅させるためのものです。例えば、契約をするときに条件や期限を付けて契約をすることができます。
停止条件・解除条件(民法127条)
(条件が成就した場合の効果)
第百二十七条 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
2 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
3 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。
1.停止条件付法律行為 → 停止条件が成就したら発生。
2.解除条件付法律行為 → 解除条件が成就したら消滅。
まずは「条件」から説明します。「条件が成就した時」とは、条件が達成された時と思ってください。条件には「停止条件」と「解除条件」があり、それぞれ条件成就したときに法律効果の効力を発生・消滅させます。
①停止条件付法律行為の例:
「試験に合格したら(停止条件)、車を贈与してもらう契約(法律行為)」をした場合、試験に合格することによって、車を贈与してもらう契約が発生します。
②解除条件付法律行為の例:
「試験に合格できなかったら(解除条件)、贈与した車を返してもらう(法律行為)」ことを約したとすれば、実際、試験に合格できなかったときは、車を贈与した契約は消滅します。
条件付法律行為のルール(128~130条)
128条 | 条件の成否が未定である間 → 条件が成就した場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができない。(利益の侵害の禁止) |
129条 | 条件の成否が未定である間における当事者の権利義務 → 一般の規定に従い、処分し、相続し、もしくは保存し、又はそのために担保を供することができる。 |
130条 | ①条件成就によって不利益を受ける当事者が故意にその条件成就を妨げた場合 → 相手方はその条件が成就したとみなすことができる。 ②条件成就によって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたとき → 相手方はその条件が成就しなかったものとみなすことができる。 |
条件付法律行為についていくつかルールがありますが、重要なのは「条件の成就の妨害等(130条)」でしょう。これは、簡単に言えば、条件成就に関してズルをした場合は相手方に有利になるということです。
※ただし、下記のような判例もあります。
農地売買契約無効確認等請求 最判昭和36年5月26日
一 知事の許可を得ることを条件として農地の売買契約をしたとしても、いわゆる停止条件を附したものということはできない。
二 農地の売主が故意に知事の許可を得ることを妨げたとしても、買主は条件を成就したものとみなすことはできない。
既成条件・不法条件・不能条件・随意条件(民法131条~134条)
既成条件・・・法律行為の時に、既に成就していた又は既に成就しないことが確定した条件
不能条件・・・成就不可能な条件
不法条件・・・不法な条件又は不法な行為をしないこととする条件(犯罪行為など)
随意条件・・・債務者の意思(気分)のみに係る条件
これらの条件は法律行為に付しても、下記表のように「無条件」又は「無効」となります。※「無条件」になるとは、条件のない法律行為になるということ。
既成条件 | 既に成就していた | 停止条件 | 無条件 |
解除条件 | 無効 | ||
成就しないことが確定 | 停止条件 | 無効 | |
解除条件 | 無条件 | ||
不能条件 | 不能の停止条件 | 無効 | |
不能の解除条件 | 無条件 | ||
不法条件 | 無効 | ||
随意条件 | 無効 |
その他、身分行為(結婚・離婚等※公序良俗に反する)や単独行為(取消し・追認・解除等)を条件とすることはできません。
確定期限・不確定期限
確定期限 | 発生が確実かつ到来するときが確定 <例> 日付(令和〇年〇月〇日) |
不確定期限 | 発生は確実だが到来は不確定 <例> 〇〇が死亡したら |
※いわゆる「出世払い」は期限(不確定期限)に当たるという有名な判例があります。出世した時、出世する見込みがなくなった時のいずれも期限の到来となります。停止条件と勘違いしやすいので注意が必要です。
始期・終期(民法135条)
(期限の到来の効果)
第百三十五条 法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。
2 法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する。
1.始期付法律行為 → その履行は、期限が到来するまで請求不可。
2.終期付法律行為 → その効力は、期限の到来で消滅する。
始期とは、例えば「来月1日から宿泊予約」など、終期とは、例えば「期限でコンサル契約終了」などです。
期限の利益(民法136条)
(期限の利益及びその放棄)
第百三十六条 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。
期限の利益・・・債務者のための利益(猶予)
期限の利益とは、その期限が来るまでは債務者に猶予があるということです。例えば、借金をしている場合でも返済期限が到来していなければ、債務者はまだ借金を返済しなくても何ら責任は負いません。
期限の利益の放棄とは、借金の例でいえば「期限前に借金を返済する」ということです。ただし、通常、借金には利息がありますので、期限前に借金を返すと債権者はその分の利息を受け取れなくなります。これは相手方の利益を害しているので、借金とともにその分の利息も一緒に支払わなければ期限の利益の放棄は不可ということになります。
期限の利益の喪失(137条)
次の場合は、債務者は期限の利益を主張できません。「期限の利益を主張できない」とは、例外的に期限前に債権者から履行請求を受けるということです。
債務者が | ①破産手続開始の決定を受けたとき |
②担保を滅失、損傷、減少させたとき | |
③担保提供義務を守らないとき |
条件・期限の重要判例等
鉱業権移転登録手続請求 最判昭和31年4月6日
鉱業権の売買契約において、買主が排水探鉱の結果品質良好と認めたときは代金を支払う旨の契約は、単に債務者の意思のみにかかる(随意条件)とは言えない。