後見(未成年後見、成年後見)、保佐、補助の重要項目をわかりやすく独学する【民法・親族法】

2024年1月12日

「後見・保佐・補助」は、民法では親族法に分類され、838条~876条の10までに規定されています。後見人などという言葉を聞いたことがある方も多いかと思いますが、後見とは、民法総則の項目である「制限行為能力者」と関係が深く、制限行為能力者の財産管理や法律行為の代理をするなど保護を行い、又は親権者のいない未成年者の法定代理人となる制度であり、実生活においても比較的身近な内容といえます。

Contents

後見・保佐・補助に関する資格試験での出題傾向

H26H27H28H29H30R1R2R3R4R5
宅建
行書
司書
「後見」過去10年の出題実績 ※宅建はR2・R3は10月・12月の2回試験あり

「後見・保佐・補助」は、過去10年、親族法の出題が少ない宅建試験で1回(選択肢の中の1つで混合問題)、行政書士試験でも1回のみとなっていますが、司法書士試験では6回とかなりの頻度で出題されています。司法書士においては業務にも直接関わってくる重要な内容のため、試験では「ほぼ出る」と考えて勉強しておいた方がよいでしょう。

出題のされ方としては、最も重要な「後見」のみ又は後見・保佐・補助をまとめて出題されることはあっても、補助についてのみ又は保佐についてのみ出題されるということは考えにくいです。また、未成年後見があることから「親権」と絡めて出題されることがあります。(※「後見」自体が「親権」の条文を準用している場合があります。)

第五章「後見」第六章「保佐及び補助」
後見(未成年後見・成年後見)保佐補助

上記表のように、後見・保佐・補助は、民法の構成では第四編親族の第五章「後見(未成年後見・成年後見)」と第六章「保佐・補助」で分類されています。

民法総則の「制限行為能力者」について勉強された方はご存じかと思いますが、「後見 > 保佐 > 補助」の順番で保護の必要性が高くなります。ですので、構成上「後見」においてまず詳しく条文が作られており、「保佐・補助」では必要に応じて後見の規定を準用する形式になっているとイメージするとわかりやすくなると思います。

※後見の条文は非常に多くありますが、資格試験対策的にはすべてを頭に入れる必要はなく、大まかな流れを把握し、重要部分を中心に学習されると良いでしょう。

後見の開始(民法838条)

まず、後見はどのような時に開始するのかということが民法838条に定められています。

(後見の開始)

第八百三十八条 後見は、次に掲げる場合に開始する。

一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。

二 後見開始の審判があったとき。

条文のポイント

1.未成年後見の開始:未成年者に親権者がいないとき又は親権者が管理権を有しないとき

2.成年後見の開始: 後見開始の審判があったとき

未成年後見の開始(1号)

未成年者に親権者がいない親権者の死亡、親権喪失の審判、親権停止の審判、後見開始の審判、その他行方不明等
親権者が管理権を有しない管理権喪失の審判、管理権の辞任

未成年後見は、未成年者に対して親権者がいないとき、又は親権者が管理権を有しないときに開始します。それぞれ上記表の事由があったときが該当します。(※未成年後見人については、前提知識として「親権」に関する内容も必要となります。)

成年後見の開始(2号)

後見開始の審判により、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者と判断されると「成年被後見人」となり、成年後見人が家庭裁判所の職権で選任され、後見が開始します(7条)。

後見開始の審判は、未成年者、未成年後見人又は未成年後見監督人も請求でき、未成年者でも後見開始の審判を受けて「成年被後見人」となることがあり得ます。ネーミングから成年者に限定されていると考えがちですが、そうではないことには注意が必要です。

未成年後見人・成年後見人(民法839条~847条)

次に、未成年後見人・成年後見人はどのように選ばれるのでしょうか?基本的な部分は似ていますが、大きく異なる部分もあります。

未成年後見人の指定・選任(839~841条)

未成年後見人
指定原則:未成年者の最後の親権者は、遺言で、未成年後見人を指定可能。
例外:管理権を有しない者は遺言での指定不可。ただし、親権者の父母の一方のみが管理権を有しないときは、他の一方は遺言で指定可能。
選任①上記指定により未成年後見人となるべき者がないとき、又は未成年後見人が欠けた時家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求により、未成年後見人を選任する。
②すでに未成年後見人がある場合家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項規定の者もしくは未成年後見人の請求又は職権により、更に未成年後見人を選任できる。
③未成年後見人の選任で考慮しなければならない事項①未成年被後見人の年齢、心身の状態、生活・財産の状況
②未成年後見人となる者の職業・経歴、未成年被後見人との利害関係の有無(※未成年後見人となる者が法人の場合、その事業の種類・内容・その法人及び代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)
③未成年被後見人の意見その他一切の事情
④父母による選任の請求父もしくは母が親権もしくは管理権を辞任、又は父もしくは母について親権喪失、親権停止、もしくは管理権喪失の審判があったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたとき
→ その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

未成年後見人は、基本的に親権者がいなくなったときに「親権者の代わりをする者」です。そのため、最後の親権者は「遺言」(自分が死亡=親権者がいなくなる)で未成年後見人となる者を指定することができます。ただし、親権者でも管理権を有しない者は遺言で指定することはできません。

指定によって未成年後見人となるべき者がない場合(又は未成年後見人が欠けた場合)、未成年被後見人、その親族、その他の利害関係人の請求により家庭裁判所が選任します。

また、父又は母が親権もしくは管理権を辞任、又は親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判を受けたときは、父又は母が未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません。

※後見においては家庭裁判所の職権が多く出てきますが、これらの選任では職権は規定されておらず盲点となっていますので要注意です。

成年後見人の選任(843条)

成年後見人
選任①後見開始の審判をするとき家庭裁判所が職権で選任する。
②成年後見人が欠けたとき家庭裁判所は、成年被後見人もしくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。
③既に成年後見人が選任されている場合家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項規定の者もしくは成年後見人の請求又は職権により、更に成年後見人を選任できる。
④成年後見人の選任で考慮しなければならない事項①成年被後見人の心身の状態、生活・財産の状況
②成年後見人となる者の職業・経歴、成年被後見人との利害関係の有無(※成年後見人となる者が法人の場合、その事業の種類・内容・その法人及び代表者と成年被後見人との利害関係の有無)
③成年被後見人の意見その他一切の事情
条文の比較ポイント

1.未成年後見人は指定できる。(⇔ 成年後見人は指定できない

2.未成年後見人・成年後見人いずれも複数選任できる。

3.未成年後見人・成年後見人いずれも法人がなることができる。

4.成年後見人の選任は、家庭裁判所が常に職権で選任できる。(⇔ 未成年後見人の選任は異なる)

上記に比較ポイントをまとめてみましたが、後見人は複数選任可能で、法人でもなれるという点は試験でも出題されやすいと思われるため注意が必要です。

後見人の辞任、解任、欠格事由等(844~847条)

未成年後見人・成年後見人
後見人の辞任(844条)正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、辞任が可能。
辞任した後見人による新たな後見人の選任の請求(845条)後見人の辞任により新たな後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
後見人の解任(846条)後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人被後見人もしくはその親族もしくは検察官の請求により又は職権で、後見人を解任可
後見人の欠格事由(847条)次の者は、後見人になれない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者

上記表は、未成年後見人・後見人いずれにも共通する内容です。後見人は正当な事由があるときは辞任することができます。ただし、辞任する場合は家庭裁判所の許可が必要となっています。

また、後見人は解任されることもあります。不正な行為をしたり後見人として相応しくない者については、後見監督人、被後見人、その親族、検察官の請求又は家庭裁判所の職権で解任することができます。特殊な請求権者として検察官(解任のみ)がいることに注意が必要です。

欠格事由については、法定代理人や財産管理をする後見人としてそもそも相応しくない者が該当すると考えておけばよいでしょう。

後見監督人(民法848~852条)

後見監督人
未成年後見監督人の指定(848条)未成年後見人を指定することができる者は、遺言で、未成年後見監督人を指定できる。
後見監督人の選任(849条)家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被後見人、その親族もしくは後見人の請求により又は職権で、後見監督人を選任できる。
後見監督人の欠格事由(850条)後見人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹
→ 後見監督人になることができない。
後見監督人の職務(851条)一 後見人の事務を監督すること。
二 後見人が欠けた場合、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
三 急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。
四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益相反行為について被後見人を代表すること。
条文のポイント

1.後見監督人の役割は、後見人の事務の監督である。

2.未成年後見監督人は指定できる。(⇔ 後見監督人は指定できない。)

3.後見監督人は、必要があるときに指定・選任される。

4.後見監督人の欠格事由は、後見人とは趣旨が異なる。

5.利益相反行為において、被後見人を代表する(後述)

後見監督人は、後見人の事務を監督することが主な役割です。後見人は、被後見人の財産を管理し、法律行為を代理するため(特にお金について)不正な行為や横領などの犯罪行為に手を染めやすい立場と言えます。そのために監督をする者が必要なわけですが、後見監督人は必ず選任されるわけではないことに注意が必要です。

後見監督人の欠格事由は、後見人とは趣旨が全く異なります。後見監督人の役割を考えると、後見人に近い人物では「監督」の役割が果たせないため、後見人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹が欠格事由となっています。※後見監督人には、後見人の欠格事由も準用されます。

委任及び後見人の規定の準用(852条)

後見監督人(共通)委任の規定:644条(受任者の注意義務)、654条(委任の終了後の処分)、655条(委任の終了の対抗要件)
後見人の規定:844条(後見人の辞任)、846条(後見人の解任)、847条(後見人の欠格事由)、861条(支出金額の予定及び後見の事務の費用)2項、862条(後見人の報酬)
未成年後見監督人のみ840条(未成年後見人の選任)3項、857条の2(未成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)
成年後見監督人のみ843条(成年後見人の選任)4項、859条の2(成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)、859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)

後見の事務(民法853条~869条)

未成年後見人・成年後見人共通の事務(財産の管理及び代表)

財産調査及び目録作成等
財産の調査及び目録の作成(853条)①後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、1か月以内にその調査を終わり、目録を作成しなければならない。(家庭裁判所で期間の伸長は可能)
後見監督人があるとき → 財産調査及び目録作成は、その立会いをもってしなければ無効。
財産の目録の作成前の権限(854条)後見人は、財産目録作成を終わるまでは、急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。ただし、これをもって善意の第三者に対抗不可。
後見人の被後見人に対する債権又は債権の申出義務(855条)①後見人が、被後見人に対し、債権を有し、又は債務を負う場合で、後見監督人があるとき → 財産調査を着手する前に、これを後見監督人に申し出なければならない。
②後見人が、被後見人に対し債権を有することを知ってこれを申し出ないときは、その債権を失う。
被後見人が包括財産を取得した場合についての準用(856条)前三条の規定を、後見人が就職した後、被後見人が包括財産を取得した場合について準用する。
財産管理・報酬等
財産の管理及び代表(859条)①後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
②被後見人の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。(824条但書準用)
支出金額の予定及び後見の事務の費用(861条)①後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。
②後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。
後見人の報酬(862条)家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる
委任及び親権の規定の準用(869条)644条(受任者の注意義務)※善管注意義務 

後見人の事務の中心は、財産を管理及び代表(859条)をすることだと考えていいでしょう。

後見人は、被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為についての「法定代理人」となります。(ただし、被後見人の行為を目的とする債務を負う場合は、被後見人本人の同意が必要)

後見人になったら、まず最初の仕事は被後見人の「財産調査」と「財産目録」及び「年間収支予定表」の作成となります。財産調査・財産目録作成については、後見監督人がいる場合はその立会いをもってしなければ効力を生じません。後見人が、被後見人に対して債権を有し又は債務を負う場合は、後見監督人に申し出る義務があります。

後見には「報酬」の規定がありますが、被後見人の財産から家庭裁判所が与えることができるという点には注意が必要です。

また、後見の事務には、委任者の善管注意義務(644条)が準用されて適用されます。 ⇔ 未成年後見人であっても、親権者の子の財産の管理「自己のためにするのと同一の注意」(827条)とは異なります。

後見人が数人ある場合の権限の行使等
未成年後見人が数人あるとき(857条の2)共同してその権限を行使する。
②家庭裁判所は、職権で、その一部の者について、財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる。
③家庭裁判所は、職権で、財産に関する権限について、各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。
④家庭裁判所は、職権で、前二項の規定による定めを取消可能。
⑤第三者の意思表示は、未成年後見人の一人に対してすれば足りる。
成年後見人が数人あるとき(859条の2)①家庭裁判所は、職権で、数人の成年後見人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。
②家庭裁判所は、職権で、前項規定による定めを取消可能。
③第三者の意思表示は、成年後見人の一人に対してすれば足りる。
条文のポイント

1.未成年後見人が複数ある場合 → 原則、共同で権限を行使

2.家庭裁判所 → 後見人が複数ある場合の行使の権限を職権で定められる。

3.第三者が意思表示をするとき → 複数の後見人のうちの一人に対してすればよい。

法改正を経て、後見人は未成年後見人・成年後見人のいずれも複数の選任が可能になっています。

後見人が複数いる場合の権限の行使については、家庭裁判所は、職権で、権限行使について定めたり、取り消したりすることができると規定されています。ただし、未成年後見人が複数の場合は、原則は共同での権限の行使となっている点には注意が必要です。

利益相反行為(民法860条)

第八百六十条 第八百二十六条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合はこの限りでない。

条文のポイント

1.826条(利益相反行為)を準用

①利益相反行為:後見人と被後見人の利益が相反する行為

②後見人が利益相反行為をするとき → 被後見人のために特別代理人の選任を家裁に請求必要。

2.後見監督人がある場合 → 特別代理人の選任は不要。

後見における利益相反行為とは、後見人が利益を受け、被後見人が不利益を受ける行為(例:被後見人の財産から後見人が贈与を受けるなど)を言います。

親権の利益相反行為(826条)の規定が準用されていますが、親権者の利益相反行為では子のために必ず特別代理人の選任を家庭裁判所に請求する必要があるのに対し、後見人の利益相反行為においては、後見監督人がいる場合、後見監督人が被後見人を代表するため、被後見人のための特別代理人の選任は不要です。

後見監督人による代表又は特別代理人の選任なく利益相反行為を行った場合、その行為は無権代理行為となります。

行為該当の有無
後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組する行為該当する
共同相続人の一人である後見人が、自ら相続放棄した後又はこれと同時に、他の共同相続人である被後見人を代理してする相続放棄該当しない

15歳未満の者を養子とする場合、その法定代理人が代わりに養子縁組を承諾をすることができます(代諾縁組)。これを後見人と被後見人に当てはめた場合、後見人は「養親」と「被後見人の法定代理人」の両方の立場から被後見人と縁組をすることができることになるため、利益相反行為に該当します。

一方、後見人と被後見人が共同相続人である場合において、後見人が被後見人を代理して相続放棄をしても、自らも相続放棄をしている場合は後見人は利益を得ていないため利益相反行為とはなりません。

利益相反行為は、いずれも動機・目的等を問わず、客観的・形式的に判断されます。仮に被後見人のためにしたつもりであっても客観的・形式的に該当すれば利益相反行為と判断されるということです。

未成年後見人のみの事務

未成年被後見人の身上監護に関する権利義務(857条)原則:未成年後見人は、820~823条までに規定する事項(監護権)について、親権者と同一の権利義務を有する。
例外:親権者が定めた教育の方法及び居所を変更し、営業を許可し、その許可を取り消し、又はこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。
未成年被後見人に代わる親権の行使(867条)①未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行う。※未成年被後見人の女子に子供ができた場合に、代わりに親権を行う。
②853~857条、861~865条までを前項の場合に準用。
財産に関する権限のみを有する未成年後見人(868条)親権者が管理権を有しない場合、未成年後見人は財産に関する権限のみを有する。※監護権は有しない。
委任及び親権の規定の準用(869条)830条(第三者が無償で子に与えた財産の管理)を準用。

未成年後見人は、未成年被後見人の監護に関する事項について、親権者と同一の権利義務を有します。ただし、親権者が定めた教育の方法や居所の変更、営業の許可の取り消し等をする場合、未成年後見監督人がいる場合はその同意が必要となります。

また、未成年被後見人の女子に子供ができた場合、未成年後見人が代わりにその子供の親権を行います。(その未成年被後見人が親権行使できないため。※子に代わる親権の行使(833条)と同様の趣旨。)

成年後見人のみの事務

成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮(858条)成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うにあたっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可(859条の3)成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

成年後見人が、成年被後見人の居住用不動産を売却等しようとする場合、家庭裁判所の許可が必要です。もし、これによって成年被後見人の住む場所がなくなったり移動させられたりしたら、成年被後見人の生活に多大な影響を与えてしまいます。

この「家庭裁判所の許可」が必要(※成年後見監督人の同意があっても)という点は、資格試験でも問われやすいと思われるので押さえておく必要があります。

成年後見人による郵便物等の管理(860条の2~860条の3)

第八百六十条の二 家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律第二条第三項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。

860条の2
嘱託期間(2項)6か月を超えることができない。
1項規定による審判があった後、事情変更を生じたとき(3項)家庭裁判所は、成年被後見人、成年後見人、成年後見監督人の請求により又は職権で、嘱託を取り消し、又は変更可。
ただし、その変更の審判においては、1項規定の審判で定められた期間を伸長不可。
成年後見人の任務が終了したとき(4項)家庭裁判所は、嘱託を取り消さなければならない。
860条の3
成年後見人(1項・2項)成年被後見人に宛てた郵便物を受け取ったときは、その郵便物を開いて見ることができる。
その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは、速やかに成年被後見人に交付しなければならない。
成年被後見人(3項)成年後見人に対し、成年後見人が受け取った1項の郵便物等(2項規定により交付されたものを除く。)の閲覧を求めることができる。

試験対策的に特に重要というわけではないのですが、独特で長文の規定のため、別枠で記載しています。

簡単に言うと、成年被後見人あての郵便物等を、家庭裁判所の嘱託により成年後見人に直接配達できるようにして、後見の事務に必要な範囲でその郵便物等を開いて確認できるということです。ただし、期間限定で6か月を超えることはできません。※嘱託とはこの場合「公的機関が依頼する」ということ。

後見の事務の監督等(863~866条)

後見の事務の監督(863条)後見監督人又は家庭裁判所は、いつでも、後見人に対し、後見の事務の報告もしくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務もしくは被後見人の財産の状況を調査可能。
②家庭裁判所は、後見監督人、被後見人もしくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。
後見監督人の同意を要する行為(864~865条)①後見人が、被後見人に代わって営業もしくは13条1項各号の行為(保佐人の同意を要する行為)をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときはその同意を得なければならない(※元本の領収を除く)。
②後見人が①に違反してした又は同意を与えた行為 → 被後見人又は後見人が取消可。※この場合、20条(制限行為能力者の相手方の催告権)規定を準用し、121条~126条までの規定(通常の取消しの規定)の適用を妨げない。
被後見人の財産等の譲受けの取消し(866条)①後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは、被後見人は、これを取消可能。※この場合、20条(制限行為能力者の相手方の催告権)規定を準用し、121条~126条までの規定(通常の取消しの規定)の適用を妨げない。

後見の事務の監督は、後見監督人のほか、家庭裁判所もすることができます(なので後見監督人は選任されるとは限りません)。いつでも、後見事務の報告、財産目録の提出を求めたり、後見事務・被後見人の財産状況の調査をすることが可能です。

後見監督人の同意を要する行為(13条1項に規定されている保佐人の同意を要する行為)について、後見監督人の同意を得なかった場合、被後見人又は後見人がその行為の取消しをすることができます。取り消すまでは有効であることと後見監督人が取り消すのではないという点、さらに「利益相反行為(無権代理行為となる)」とは異なるという点に注意が必要です。

後見の終了(民法870条~875条)

後見の計算(870条・871条)①後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、2か月以内にその管理の計算(後見の計算)をしなければならない。ただし、家庭裁判所で期間の伸長可。
後見監督人があるときは、その立会いをもってしなければならない。
未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し(872条)①未成年被後見人が成年に達した後、後見の計算終了前に、その者と未成年後見人又はその相続人との間でした契約は、その者が取り消すことができる。その者が未成年後見人又はその相続人に対してした単独行為も、同様とする。
②20条、121~126条までの規定を前項の場合に準用。
返還金に対する利息の支払等(873条)①後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還すべき金額には、後見の計算が終了した時から、利息を付さなければならない。
②後見人は、自己のために被後見人の金銭を消費したときは、その消費の時から、これに利息を付さなければならない。この場合、なお損害があるときはその賠償責任を負う。※損害については、不法行為と同様、故意又は過失が要件となる。不当利得の悪意の受益者と同様。
委任の規定の準用(874条)654条(委任の終了後の処分)、655条(委任の終了の対抗要件)の規定は、後見について準用する。
後見に関して生じた債権の消滅時効(875条)①832条規定を、後見人又は後見監督人と被後見人との間において後見に関して生じた債権の消滅時効に準用。
②前項の消滅時効は、872条規定により法律行為を取り消した場合、その取消しの時から起算。
条文のポイント(870条)

1.後見人の任務が終了したとき → 後見の計算をしなければならない。

2.後見の計算とは → 後見事務で管理していた財産の計算・報告・引継

後見の終了被後見人の事由未成年者の成人、後見開始の審判の取消し、養子縁組、死亡
後見人の事由辞任、解任、選任取消し、欠格事由に該当、死亡

後見の任務の終了には、被後見人が成年者になった、養子縁組した、死亡した場合などの他、後見人の辞任・解任等の場合もあります。後見が終了した場合は、2か月以内に財産の計算をし、本人や新後見人への財産の引継、家庭裁判所への報告をしなければなりません。後見監督人がいる場合は立会いが必要です。

成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限(873条の2)

第八百七十三条の二 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為

二 相続財産に関する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済

三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

後見において成年被後見人が死亡した場合、相続人が相続財産を管理できるようになるまでに、成年後見人ができる事務(死後事務)を規定した条文です。

ただし、これらは相続人の意思に反することが明らかなときはできません。また、上記三号の行為をする場合には、家庭裁判所の許可が必須となります(死後事務の許可の申立て)。

※成年後見人のみがすることができる。保佐人、補助人、未成年後見人、任意後見人は不可。


保佐(民法876条~876条の5)、補助(民法876条の6~876条の10)

これまで「後見」について長々と記載してきましたが、「保佐」「補助」については、それぞれ5つずつの条文しかなく内容もほとんど同じで、後見の規定の準用が多くなっています(準用する条文も同じ)。つまり「保佐」と「補助」の違いというものは親族法の規定ではほとんど見られません。

試験対策的には「後見」についてしっかり勉強することのほうが重要です。ただし、いくつかの「保佐」「補助」独自の規定はあります。

※保佐と補助の異なる点は、民法総則の「制限行為能力者」の規定によります。

保佐の開始(876条)、補助の開始(876条の6)

保佐の開始(876条)保佐は、保佐開始の審判によって開始する。
補助の開始(876条の6)補助は、補助開始の審判によって開始する。

保佐人の選任(876条の2)、補助人の選任(876条の7)

保佐人の選任
(876条の2)
①家庭裁判所は、保佐開始の審判をするときは、職権で保佐人を選任する。
②843条2~4項、844~847条までの規定を保佐人に準用。
補助人の選任
(876条の7)
①家庭裁判所は、補助開始の審判をするときは、職権で補助人を選任する。
②843条2~4項、844~847条までの規定を補助人に準用。

利益相反行為(臨時保佐人の選任、臨時補助人の選任)

臨時保佐人
(876条の2)
保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益相反行為
原則:保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
例外:保佐監督人がある場合は、請求不要。

臨時補助人
(876条の7)
補助人又はその代表する者と被補助人との利益相反行為
原則:補助人は、臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
例外:補助監督人がある場合は、請求不要。

※後見人と被後見人の利益相反行為では「特別代理人」の選任(又は「後見監督人」が代表)でしたが、保佐・補助では特別代理人がそれぞれ臨時保佐人・臨時補助人になっていることにご注意ください。

代理権を付与する旨の審判

保佐人に代理権を付与する旨の審判(876条の4)①家庭裁判所は、11条本文に規定する者又は保佐人もしくは保佐監督人の請求により、被保佐人のために特定の法律行為について「保佐人に代理権を付与する旨の審判」ができる。
②本人以外の者の請求による場合 → 本人の同意必要
③家庭裁判所は、①に規定する者の請求により、①の審判の全部又は一部を取り消すことができる。
補助人に代理権を付与する旨の審判(876条の9)①家庭裁判所は、15条1項本文に規定する者又は補助人もしくは補助監督人の請求により、被補助人のために特定の法律行為について「補助人に代理権を付与する旨の審判」ができる。
②本人以外の者の請求による場合 → 本人の同意必要
③家庭裁判所は、①に規定する者の請求により、①の審判の全部又は一部を取り消すことができる。(※上記876条の4②③を準用)

保佐監督人(876条の3)、補助監督人(876条の8)

保佐監督人(876条の3)
選任家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被保佐人、その親族もしくは保佐人の請求により又は職権で、保佐監督人を選任できる。
委任・後見の規定の準用委任の規定:644条(受任者の注意義務)、654条(委任の終了後の処分)、655条(委任の終了の対抗要件)
後見の規定:843条(成年後見人の選任)4項、844条(後見人の辞任)、846条(後見人の解任)、847条(後見人の欠格事由)、850条(後見監督人の欠格事由)、851条(後見監督人の職務)、859条の2(成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)、859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)、861条(支出金額の予定及び後見の事務の費用)2項、862条(後見人の報酬)
利益相反行為(851条4号準用)被保佐人を代表し、又は被保佐人がこれをすることに同意する。
補助監督人(876条の8)
選任家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被補助人、その親族もしくは補助人の請求により又は職権で、補助監督人を選任できる。
委任・後見の規定の準用委任の規定:644条(受任者の注意義務)、654条(委任の終了後の処分)、655条(委任の終了の対抗要件)
後見の規定:843条(成年後見人の選任)4項、844条(後見人の辞任)、846条(後見人の解任)、847条(後見人の欠格事由)、850条(後見監督人の欠格事由)、851条(後見監督人の職務)、859条の2(成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)、859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)、861条(支出金額の予定及び後見の事務の費用)2項、862条(後見人の報酬)
利益相反行為(851条4号準用)被補助人を代表し、又は被補助人がこれをすることに同意する。

保佐人の事務及び保佐人の任務の終了等(876条の5)

保佐の事務(876条の5)保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
委任及び後見の規定の準用
保佐の事務644条(受任者の注意義務)、859条の2(成年後見人が複数ある場合の権限の行使等)、859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)、861条(支出金額の予定及び後見の事務の費用)2項、862条(後見人の報酬)、863条(後見の事務の監督)
代理権付与の審判に基づき被保佐人を代表する場合824条(財産の管理及び代表)但書
→ 被保佐人の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
保佐人の任務の終了654条(委任の終了後の処分)、655条(委任の終了の対抗要件)、870~871条(後見の計算)、873条(返還金に対する利息の支払等)
債権832条(財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効)
保佐人又は保佐監督人と被保佐人との間において保佐に関して生じた債権 → 管理権消滅から5年間

補助の事務及び補助人の任務の終了等(876条の10)

補助の事務(876条の5第1項準用)補助人は、補助の事務を行うに当たっては、被補助人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
委任及び後見の規定の準用
補助の事務644条(受任者の注意義務)、859条の2(成年後見人が複数ある場合の権限の行使等)、859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)、861条(支出金額の予定及び後見の事務の費用)2項、862条(後見人の報酬)、863条(後見の事務の監督)
代理権を付与する旨の審判に基づき被補助人を代表する場合824条(財産の管理及び代表)但書
→ 被補助人の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
補助人の任務の終了654条(委任の終了後の処分)、655条(委任の終了の対抗要件)、870~871条(後見の計算)、873条(返還金に対する利息の支払等)
債権832条(財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効)
補助人又は補助監督人と被補助人との間において補助に関して生じた債権 → 管理権消滅から5年間

後見に関する出題手口の例

(普)後見人が被後見人と利益相反行為をする場合、後見監督人がいる場合でも特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

答え

× (後見監督人が被後見人を代表するため、特別代理人の選任は不要。)

(普)未成年後見人が欠けたとき、家庭裁判所は、職権で未成年後見人を選任することができる。

答え

× (家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求により、未成年後見人を選任する。)

後見,民法,親族法

Posted by getter