氏(婚姻・離婚・養子縁組・離縁)の重要項目をわかりやすく独学する【民法】

2024年1月12日

「氏」(氏名の氏)は、民法では婚姻、離婚、養子縁組、離縁といった親族法の複数の項目に関係します。新たな親族関係を生じさせたり、終わらせたりすると氏が変わる場合があります。資格試験においても問われることがある内容です。

氏に関する資格試験での出題傾向

H26H27H28H29H30R1R2R3R4R5
宅建
行書
司書
「氏」過去10年の出題実績 ※宅建はR2・R3は10月・12月の2回試験あり

行政書士試験は親族法の出題の割合自体が少なく(宅建試験は相続法中心)、「氏」の出題は行政書士試験の過去10年で1回しかありませんが、司法書士試験でも過去10年で2回(うち1回は選択肢の一つ)とそれほど出題されていません。さらっと勉強しておいて、もし出題された場合に思い出せるようにしておくことができればよいかもしれません。

夫婦の氏(婚姻・離婚)

夫婦の氏
婚姻①夫婦は、婚姻の際に定めるところにより、夫又は妻の氏を称する。
②生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる
離婚①婚姻で氏を改めた夫又は妻は、離婚によって復氏する
②離婚の日から3か月以内に届出で離婚時の氏に変更できる
※離婚は「婚姻の取消し」の場合を含む。

夫婦の氏についてはだいたいご存知かとは思いますが、まず、婚姻(結婚)をすると夫婦のいずれかの氏を名乗ることになります。(750条)

一方、離婚をすると、婚姻によって氏を改めた者は原則として「復氏」します。復氏とは、この場合「婚姻前の氏に戻ること」です。法的に婚姻前の氏に戻ることになります。(767条)

届出による氏の変更

夫婦の一方が亡くなったとしても氏に変更はありません。しかし、「生存しているもう一方の配偶者(生存配偶者)」は、届出(復氏届)を行うことによって、婚姻前の氏に戻すこともできます。(姻族関係終了届と合わせて「死後離婚」などと言われているようです。)

また、「離婚によって復氏した者」は、離婚の日から3か月以内に届出をすることによって、離婚の際に称していた氏(婚姻していた時の氏)を称することができます。子供のことなどを考えて婚姻の時の氏を変えたくない場合は、戻すための手続が必要になるということです。

子の氏(嫡出・婚姻・離婚・認知・縁組・離縁)

子の氏
嫡出①嫡出子 :夫婦の氏
②非嫡出子:母の氏
婚姻父母の婚姻で父母と氏が異なることとなった場合、婚姻中は「家裁の許可なし」で届出で父母の氏に変更可能
離婚①原則、変更なし
②家裁の許可を得た上で届出によりもう一方の氏に変更可能
③出生前に父母が離婚した場合、離婚時の父母の氏
認知父が認知した非嫡出子は、家裁の許可を得た上で届出により父の氏に変更可能
縁組①養親の氏を称する(※特別養子縁組も同様)
②婚姻によって氏を改めた者は、婚姻の際に定めた氏を称すべき間はその氏
離縁復氏する
②配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁した場合は復氏しない
③縁組7年経過後に離縁で復氏した場合、3か月以内に届出で離縁時の氏に変更可能
※離婚は「婚姻の取消し」、離縁は「縁組の取消し」の場合を含む。

氏については、実は「子の氏」に複雑なルールがあります。婚姻・離婚以外に嫡出・認知、養子縁組・離縁が関係してくるからです(なお、養親の氏は変更しません)。

重要条文① 子の氏の変更(民法791条)

第七百九十一条 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。

2 父または母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。

3 子が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前二項の行為をすることができる。

4 前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。

条文のポイント

1項(離婚・認知):父母の氏が異なる場合で、父母のいずれかの氏に変更 

→ 家裁の許可+届出が必要

2項(準正・復縁):父母が婚姻した場合で、父母と同一の氏にする 

→ 婚姻中に限り届出のみでOK

父母の離婚や認知された場合の子の氏の変更(1項)

1項は、父母が離婚した場合子が認知された場合等を想定している条文です。

例1:婚姻により父の氏を称していた母が離婚した場合、母は復氏しますが、子の氏はそのままです。母が子の親権を得るなどして子の氏を母の氏にしたい場合は、家庭裁判所の許可を得て届出により変更します。

例2:非嫡出子は母の氏を称しますが、父によって認知された場合、家庭裁判所の許可を得て届出をすることによって父の氏へ変更することもできます。

準正や復縁の場合の子の氏の変更(2項)

2項は、準正によって嫡出子となった場合や復縁をした場合を想定している条文です。

例:非嫡出子は母の氏を称します。その非嫡出子を認知した父と母が婚姻して母が父の氏に改めたとしても、子は母の氏のままです。この場合、父母の婚姻中に限り、届出のみ(家裁の許可不要)で子の氏を父母の氏にすることができるということです。※準正についてはこちら

重要条文② 養子の氏(民法810条)

第八百十条 養子は、養親の氏を称する。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。

条文のポイント

「婚姻によって氏を改めた者」→ 夫婦(同一戸籍に入っている)を想定

通常、養子になった場合、養親の氏を称することになります。ただし、例外規定があり、これが少々ややこしく場合分けが必要となっています。

婚姻によって氏を改めているということは「夫婦」ということです。夫婦は同一戸籍に入っており、同一戸籍の者は同一の氏になります。それを踏まえて、妻が氏を改めていた場合を考えると次のようになります。

①夫のみ養子となった場合→ 夫・妻いずれも養親の氏
②妻のみ養子となった場合→ 妻の氏は変わらず夫の氏

婚姻により氏を改めた妻のみ養子となった場合、妻は夫と同一戸籍に入っている間(婚姻の際に定めた氏を称すべき間)は、夫の氏が変わらない以上、養子になったとしても氏は変わりません。

一方、夫のみ養子となった場合、夫は婚姻により氏を改めていないため養親の氏を称することになりますが、妻は夫と同一戸籍に入っていますので、夫の氏が変わると妻の氏も変わることになります。

氏に関する出題手口の例

(難)子を認知した父と、その子の母が認知後に婚姻をして母が氏を改めた場合、婚姻中にその子の氏を父の氏に変更するためには家庭裁判所の許可が必要である。

答え

× (家庭裁判所の許可は不要、届出のみで変更できる。)