特別養子縁組(成立・要件・離縁)の重要項目をわかりやすく独学する【民法・親族法】
「特別養子縁組」は、児童福祉のための養子縁組の制度です。民法では親族法に分類され、817条の2~817条の11までに規定されています。
特別養子縁組に関する資格試験での出題傾向
H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | |
宅建 | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – |
行書 | – | – | 〇 | – | – | – | 〇 | – | – | – |
司書 | 〇 | – | – | – | – | 〇 | 〇 | – | 〇 | 〇 |
「養子」については行政書士試験では過去10年に2回、司法書士試験に至っては5回で過去5年間に4回と集中的に出題されています。「特別養子縁組」に限ると、2019年に法改正された直後、行政書士試験では令和2年、司法書士試験では令和元年にそれぞれ出題(令和5年にも選択肢で出題あり)がありました。条文の量としてはそれほど多くはなく、さらっと勉強して試験の時に思い出せるようにしておければよいでしょう。
特別養子縁組の成立と要件
まず、特別養子縁組とは、両親がいない、親に虐待を受けている等の事情で育てられない子供がちゃんとした家庭で養育を受けられるようにするための制度です。そのため、原則として当事者双方の意思と届出で成立する普通養子縁組とは異なり、特別養子縁組を成立させるためにはいくつかの要件があります。
特別養子縁組の成立(民法817条の2)
第八百十七条の二 家庭裁判所は、次条から第八百十七条の七までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
2 前項に規定する請求をするには、第七百九十四条又は第七百九十八条の許可を得ることを要しない。
1.特別養子縁組は、家庭裁判所に請求する。
2.特別養子縁組が成立すると、実方の血族との親族関係が終了する。
普通養子縁組 | 届出で成立(ケースによりその他の要件あり) |
特別養子縁組 | 家庭裁判所に請求し、審判により成立(要件を全て満たした場合) |
特別養子縁組は、要件や方式が普通養子縁組とはかなり異なります。特別養子縁組は届出ではなく、児童相談所や民間事業者等を通して最終的に家庭裁判所へ申立てをし、審判によって成立となります。その際、下記の「民法817条の3~817条の7までに定める要件」を全て満たしている必要があります。(ただし、養子縁組において未成年者・被後見人を養子にする場合の家庭裁判所の許可は不要となります。)
特別養子縁組の要件(民法817条の3~817条の7)
養親の夫婦共同縁組(817条の3) | 養親となる者は、配偶者のある者限定。 原則:夫婦の一方は、他の一方が養親とならないときは養親となることができない。(夫婦共同縁組) 例外:ただし、夫婦の一方が他の一方の嫡出子(特別養子縁組以外の縁組による養子を除く。)の養親となる場合は可能。 |
養親となる者の年齢(817条の4) | 原則:25歳に達しない者は養親になれない。 例外:養親となる者の一方が25歳に達していない場合でも、その者が20歳に達していれば可。 |
養子となる者の年齢(817条の5) | 原則:特別養子縁組の請求時に15歳に達している者は養子になれない。特別養子縁組成立までに18歳に達した者も同様。 例外:養子となる者が15歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合で、15歳に達するまでに特別養子縁組の請求がされなかったことについてやむを得ない事由があるとき。15歳に達した者の特別養子縁組の成立には、その者の同意が必要。 |
父母の同意(817条の6) | 原則:養子となる者の父母の同意必要。 例外:父母がその意思を表示不可の場合又は父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由があるときは父母の同意不要。 |
子の利益のための特別の必要性(817条の7) | 父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合に、子の利益のため特に必要があると認めるときに成立させる。 |
監護の状況(817条の8) | ①特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を6か月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。 ②上記期間は、特別養子縁組の請求の時から起算する。ただし、その請求前の監護の状況が明らかであるときは、この限りでない。 |
特別養子縁組は、養親となる者は必ず「夫婦」で行う必要があります。新たな夫婦のもとで子を育てさせるための制度ですから、父のみや母のみ、あるいは夫婦ではない恋人同士等では十分な監護が期待できません。
そして、養親となる者には25歳以上という年齢の制限があります。ただし、「一方が25歳に達していなくてもその者が20歳に達していればよい(一方が25歳以上であればもう一方は20歳以上でよい)」という例外ケースを覚えておくべきでしょう。
養子にも年齢制限があります。養子となる者が15歳になった場合、原則として養子にはなれません(特別養子縁組の請求不可※15歳以上は自ら普通養子縁組可能)。また、特別養子縁組成立までに18歳になった者は養子になれません。例外として、15歳になる前から引き続き養親となる者に監護されており、やむを得ない事由で特別養子縁組の請求がされなかった場合は、15歳を超えていても特別養子縁組の請求が可能です。
条文上、要件は「民法817条の3~817条の7まで」となっているのですが、特別養子縁組を成立させるためには「6か月以上の監護の状況」を考慮しなければならない(817条の8)と規定されています。
実方との親子関係の終了(民法817条の9)
第八百十七条の九 養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、特別養子縁組によって終了する。ただし、第八百十七条の三ただし書に規定する他の一方及びその血族との親族関係については、この限りでない。
普通養子縁組 | 実方との親族関係は終了しない。 |
特別養子縁組 | 原則:実方との親族関係は終了する。 例外:養子となる者が夫婦の一方の嫡出子(普通養子縁組による養子を除く。)の場合、その一方及びその血族との親族関係は終了しない。 |
普通養子縁組では養子が養親の嫡出子の身分を得ると同時に実親との親族関係も残るという形でしたが、特別養子縁組では実方との親族関係は終了してしまいます。制度の趣旨として、親としてふさわしい養親との新たな親子関係・親族関係を成立させるため、ふさわしくない実方との親族関係は終了するのだと考えればよいでしょう。
ただし、例外ケースがあります。それは養子が養親の一方の嫡出子(普通養子縁組による嫡出子を除く)の場合です。縁組によらない嫡出子なのだから特別養子縁組をしたとしても夫婦の一方は実の親ということになります。特別養子縁組成立後も親のままなのに親族関係を終了させる必要はないということです。
特別養子縁組の離縁(民法817条の10)
第八百十七条の十 次の各号のいずれにも該当する場合において、養子の利益のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所は、養子、実父母又は検察官の請求により、特別養子縁組の当事者を離縁させることができる。
一 養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること。
二 実父母が相当の監護をすることができること。
2 離縁は、前項の規定による場合のほか、これをすることができない。
1.特別養子縁組は、家庭裁判所への請求で離縁できる場合がある。
2.誰が請求できる? → 養子、実父母、検察官 ※養親は請求不可
離縁とは養子縁組を解消することです。せっかく成立させた特別養子縁組ですが、不幸にも養親による虐待等が起こってしまった場合、家庭裁判所は養子等の請求により離縁させることができます。まず、離縁が成立するには二つの要件があり、いずれにも該当する必要があります。簡単に言えば、①「虐待や遺棄など養親に養子の監護を任せられない事由」があり、かつ、②「代わりに実父母が監護できる状況」であるという要件です。
そして、離縁を請求できるのは養子、実父母、検察官となっています。養親から請求することはできません。離縁の原因が養親による虐待・遺棄等であるのに、離縁の原因を作っている側から請求ができたらおかしいですよね。
離縁による実方との親族関係の回復(民法817条の11)
特別養子縁組で離縁があった場合、養子と実父母及びその血族の間では、離縁の日から、特別養子縁組によって終了していた親族関係が回復します。特別養子縁組の離縁=実父母が監護できる状況に戻ったということなので、親族関係も元通りになるということです。
特別養子縁組の出題手口の例
(普)特別養子縁組の養親となる夫婦の年齢は、いずれも25歳以上であることを要する。
× (夫婦の一方が25歳に達している場合、もう一方は20歳に達していればよい。)