不在者の財産管理(不在者財産管理人)の重要部分をわかりやすく独学する【民法】
「不在者の財産管理」は、「失踪宣告」と同じ節にあり、セットで勉強すべき項目です。(失踪宣告は「不在者」を死亡扱いにする制度だからです。)民法では25~29条までに規定されています。
民法の中ではあまりメジャーな内容ではありませんが、管理人の職務・権限等(27~29条)が「相続財産管理人」「相続財産清算人」「遺産管理人」(親族・相続法)等に準用されており、民法全体を学ぶ上ではそれなりに重要な内容とも言えます。
不在者の財産管理に関する資格試験での出題傾向
H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | |
宅建 | – | – | – | – | – | – | – | – | – | 〇 |
行書 | – | – | – | – | – | – | – | 〇 | – | ? |
司書 | – | – | 〇 | – | – | – | 〇 | – | – | – |
宅建試験においては令和5年度の試験で出題、過去10年では、行政書士試験では1回、司法書士試験では2回の出題がされています。
重要条文① 民法25条(不在者の財産の管理)
第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。
まず重要なことは「不在者」の定義と、「その財産の管理人(不在者財産管理人といいます)」の定義です。
不在者・・・従来の住所又は居所を去った者
不在者財産管理人・・・不在者の財産を管理する者
※「居所」とは、住所が不明な場合に住所とみなされる居場所といったイメージ
不在者は、簡単に言えば「住んでいた場所からいなくなった人」のことで、不在者財産管理人は、その不在者の財産を代わりに管理する人です。
誰が請求できるのか? → 利害関係人又は検察官
どこに請求するのか? → 家庭裁判所
何を請求するのか? → 不在者の財産の管理について必要な処分
請求できる条件 → 不在者が、不在者財産管理人を置かなかったとき
不在者が管理人を置いたとき → 家庭裁判所は、命令を取り消さなければならない
例えば、不動産を共有している人の一人が不在者となった場合、他の不動産の共有者が不動産売却したいときに困ってしまいます(売却は共有者全員でしなければなりません)。そのような時に家庭裁判所に不在者財産管理人による処分を請求することができるということです。また、失踪宣告と異なり、利害関係人だけでなく「検察官」も請求できることに注意が必要です。
家庭裁判所の命令後、不在者(と思われた人)が管理人を置いたときは、家庭裁判所は命令を取り消さなければなりません。管理人がいなかった(又は権限が消滅した)から管理人が置かれたわけで、その後に本人が管理人を置いたなら必要なくなるためです。
ただし、不在者が管理人を置いた場合でその不在者の生死が明らかでない場合、利害関係人又は検察官は家庭裁判所に「不在者財産管理人の改任」を請求することができます。(26条)
重要条文② 民法28条(管理人の権限)
第二十八条 管理人は、第百三条に規定する権限を越える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を越える行為を必要とするときも、同様とする。
上述のように、管理人に関する民法27~29条は他の条文でも準用されている内容となります。
中でも28条の「管理人の権限」が重要です。この条文の内容を知るにはまず民法103条の内容(権限の定めのない代理人の権限)を知る必要があります。※法律の条文ではこのように他の条文の内容を使うことがあります。
第百三条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
代理人であれば、特別な権限がなくてもできる行為について定められています。
一の例・・・動産の修繕行為など管理する上で必要な行為
二の例・・・預金を定期預金にするなどの行為
つまり28条は、不在者財産管理人がこれらの行為以外の行為をするときは、家庭裁判所の許可が必要であるという内容となります。
27条(管理人の職務)、29条(管理人の担保提供及び報酬)については以下の表に簡単にまとめましたのでご参考ください。
管理人の職務 | 財産目録の作成 | 管理すべき財産の目録作成義務 |
財産の保存 | 家裁が、管理人に財産保存に必要な処分を命令可。 | |
管理人の担保提供及び報酬 | 担保提供 | 家裁は、管理人による財産管理及び返還について、相当の担保を立てさせることができる。 |
報酬 | 家裁は、管理人に、不在者の財産から相当の報酬を与えることができる。 |
不在者の財産管理の出題手口の例
(普)不在者が財産の管理人を置かなかった場合、家庭裁判所に対して、不在者の財産の管理について必要な処分を命ずることを請求できるのは、利害関係人のみである。
× (利害関係人又は検察官が請求できる。)
(普)不在者の財産の管理人は、不在者の財産の保存行為をする場合は、家庭裁判所の許可を得なければならない。
× (保存行為は家庭裁判所の許可不要。)
(難)家庭裁判所が選任した管理人は、家庭裁判所の許可を得ないで、不在者を被告とする建物収去土地明渡請求を認容した判決に対し控訴することができない。
× (この場合、控訴は、財産を維持する行為として103条1号の保存行為にあたる)
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