離婚(協議離婚・裁判離婚)の重要項目をわかりやすく独学する【民法】
「離婚」は、配偶者と夫婦である婚姻関係を解消することです。民法では親族法に分類され、協議離婚と裁判離婚があり、763~771条までに規定されています。
離婚に関する資格試験での出題傾向
H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | |
宅建 | – | – | – | – | – | – | 〇 | – | – | – |
行書 | – | 〇 | 〇 | – | 〇 | 〇 | – | – | – | – |
司書 | – | – | – | 〇 | 〇 | – | – | 〇 | – | – |
「離婚」は「婚姻」とセットとも言えます。過去10年、親族法の出題が少ない宅建試験では1回、行政書士試験では4回、司法書士試験でも3回と、少なくない頻度で出題がされています。「離婚」に関する内容は行政書士試験では記述問題(H27・H28)で2度問われた実績もありますので、条文の量は多くないのであまり手間をかけずに頭には入れておきたいところです。
協議離婚(民法763条)
(協議上の離婚)
第七百六十三条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
夫婦は、協議(話し合い)によって離婚をすることができます。ただし、この協議では「離婚をすること」だけを話し合うのではなく、離婚に伴い、次の事項について取り決めをします。
離婚後の子の監護に関する事項の定め等(民法766条)
第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子の面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
1.協議離婚をするときは、次の事項を夫婦の協議で定める。
①子の監護をすべき者 ②父又は母と子の面会・交流 ③子の監護に要する費用の分担(養育費の分担) ④その他の子の監護について必要な事項
→ 子の利益が最も優先
2.協議が調わないとき又はできないときは、家庭裁判所が定める。
父母が協議離婚をするときは、①子の監護をすべき者、②父母と子の面会・交流、③養育費の分担、④その他の必要な事項について取り決めをするという条文です。「子の監護をすべき者」とは、実際に子を引き取って育てる者をいい、親権者とは異なる場合もあります。世の中、離婚時にもめる夫婦はたくさんいますので、ただ単に離婚しますというだけでは子に関してトラブルが起こることは明白です。この取り決めについては「子の利益」が最も優先されます。
また、夫婦の協議で定まらないときは、家庭裁判所に決めてもらうことができます。
財産分与(民法768条)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
1.協議離婚に伴い、相手方に「財産分与」を請求することができる(必須ではない)
2.協議が調わないとき又はできないときは、家庭裁判所に「協議に代わる処分」を請求できる。ただし、離婚時から2年経過したときは不可。
夫婦生活で築いた財産は、原則として夫婦の共有財産となります。例えば、夫婦の一方が仕事して自分名義で給料を得ていたとしても、もう一方が家事で支えていたなら実質的に夫婦生活により共同で得た財産となります。また、婚姻中に得た財産のうち夫婦のいずれかに属するか明らかでない財産は夫婦の共有と推定されます(762条2項)。このような共有財産を離婚に伴い分割するのが「財産分与」となります。
判例によれば、財産分与には①「婚姻中の夫婦財産の清算」②「離婚後の生活に困窮する配偶者の扶養」③「離婚に伴う慰謝料」の3つの要素が含まれるとしています。(※H28行政書士試験記述試験の内容)
その他離婚の効力等
離婚による復氏等(767条) | ①婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議離婚によって婚姻前の氏に服する。 ②離婚によって婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3か月以内に届出をすることによって離婚の際に称していた氏を称することができる。 |
離婚による復氏の際の権利の承継(769条) | ①「婚姻によって氏を改めた夫又は妻」が、897条1項の権利(祭祀に関する権利)を承継した後、協議離婚をしたときは、当事者その他の関係者の協議でその権利承継者を定めなければならない。 ②協議が調わない又はできないときは、家庭裁判所が権利承継者を定める。 ※試験ではあまり重要でないと思われる |
子の氏(790条1項但書) | 子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏(夫婦の時の氏)を称する。 ※親権者は原則として母となる。(819条3項) |
離婚等による姻族関係の終了(728条1項) | 姻族関係は、離婚によって終了する。 |
離婚をした場合、婚姻によって氏を改めていた夫又は妻は、復氏(旧姓に戻る)することになります。ただし、離婚日から3か月以内に「離婚の際に称していた氏(夫婦の時の氏)」に戻すこともできます。例えば、子供がいる場合、自分が復氏しても子供は復氏しない(そのまま)ので、子供と同じ氏にしたい場合は戻すことが考えられます。
その他、婚姻によって生じていた姻族関係(配偶者の血族との親族関係)は終了してしまいます。配偶者との親族関係が法的に消えた以上、配偶者の血族との親族関係も消えることになります。
離婚の届出・受理(民法764~765条)
届出 | ※婚姻の規定(738~739条)を準用。 戸籍法の定めるところにより、届出をすることによって効力を生ずる。 届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭でする。 成年被後見人が離婚をするには、その成年後見人の同意を要しない。 |
受理 | 届出の規定、819条1項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ受理不可。 離婚の届出が規定に違反して受理されたときでも、離婚は有効となる。 |
離婚は、当事者の合意に基づき、届出をすることによって成立します。婚姻の届出を準用していますが、縁組(特別養子縁組)・離縁でも準用されていますので、婚姻・離婚・普通養子縁組・離縁の届出の方式は共通しているということです。
上記表の819条1項の規定とは協議離婚の際は夫婦の一方を親権者と定めなければならないという規定です。親権者を定めていない場合は届出は原則として受理されません。ただし、規定違反の届出が手違い等で受理されてしまった場合でも届出は有効となります。
詐欺又は強迫による離婚の取消し
(詐欺又は強迫による婚姻の取消し)
第七百四十七条 詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前項の規定の取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後三箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。
離婚は婚姻と異なり、取消しについて婚姻障害事由のようなものが規定されておらず、「詐欺」又は「強迫」による取消しのみとなり、婚姻の取消しの規定(747条)が準用されています(※条文の「婚姻」の部分を「離婚」に読み替え)。この離婚の取消しは、詐欺を発見又は強迫を免れてから3か月以内に家庭裁判所に請求する必要があります。
また、「離婚の無効」についての規定はありませんが、例えば勝手に協議離婚の届出を出されたような場合は一方が離婚の意思を欠いているため無効な届出となります。
裁判離婚(民法770条)
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
1.離婚原因に該当している場合のみ、離婚の訴えを提起できる。
2.条件を満たしていても、離婚の請求が棄却されることがある。
離婚のうち「裁判離婚」の占める割合は非常に少ないと言われています。協議離婚ができない場合は「調停前置主義」をとっており、離婚訴訟をする前に「離婚調停」を行わなければならず、多くの場合、訴訟へ行く前に離婚が成立してしまいます。ただ、民法においては協議離婚と裁判離婚に関する規定しかないので、この2つについて学習が必要となります。
裁判によって離婚をするには「離婚の訴え」を提起しなければなりませんが、そのためには離婚原因(1項1~5号)のいずれかに該当している必要があります。「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、例えばDVなどです。ただし、要件に該当していても、離婚請求は棄却されることもあり得ます。
また、離婚原因を作り出した配偶者は「有責配偶者」と呼ばれ、原則として有責配偶者側から離婚の請求をすることはできなくなります。
協議離婚の規定の準用(771条)
裁判上の離婚では、裁判所は、父母の一方を親権者と定めます(819条2項)。また、下記の協議離婚の規定が準用されます(771条)。協議離婚でも裁判離婚でも「離婚に伴い必要になること」は基本的に同様ということです。この中で「離婚後の子の監護に関する事項の定め等」「財差分与」は附帯処分として離婚の訴えとあわせて申立てをすることができます。
準用される規定 |
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離婚後の子の監護に関する事項の定め等(766条) |
離婚による復氏等(767条) |
財産分与(768条) |
離婚による復氏の際の権利の承継(769条) |
離婚に関する出題手口の例
(普)協議離婚の届出をする場合には、夫婦の一方を親権者として定める必要がある。
〇 (夫婦の一方を親権者に定めなければならない。)
離婚に関する重要判例等
無効の協議離婚の追認があったと認められた事例 S42.4.22
上告人と被上告人が長期間全くの別居状態にあり事実上の夫婦生活を営んでいないこと、両名が家事調停において、上告人が届出された無効の協議離婚を認めることを前提にして慰謝料の支払いを受ける旨の合意をしたなどの事実関係のもとにおいては、上告人が家事調停の際に無効の協議離婚を追認したものと認めるのが相当である。
重婚における後婚の離婚による解消と後婚の取消の訴えの許否 S57.9.28
重婚において、後婚が離婚によって解消された場合には、特段の事情のない限り、後婚の取消を請求することは許されない。