嫡出の否認、嫡出否認の訴え(法改正あり)の重要項目をわかりやすく独学する【民法】

2024年3月30日

「嫡出の否認」「嫡出否認の訴え」に関する事項は、「嫡出推定」とセットで勉強すべき項目です。これらでだいたい「嫡出」に関する事項はカバーできます。

嫡出に関する資格試験での出題傾向

H26H27H28H29H30R1R2R3R4R5
宅建
行政書士記述
司法書士
「嫡出」過去10年の出題実績 ※宅建はR2・R3は10月・12月の2回試験あり

宅建・行政書士試験では親族・相続法の出題自体が少ない(だいたい各1問)うえに、相続法のほうが出題されやすいです。ただし、行政書士試験では記述式問題でずばり「嫡出否認の訴え」が出題されたことがあります。一方、司法書士試験は親族・相続法は各2問ずつ出題されるため、若干出題されやすいと言えます。

本記事の嫡出の否認、嫡出否認の訴えは法改正がありますが、令和6年4月1日施行のため、令和5年度の試験範囲には改正前(現行)の条文が適用されるのでご注意ください。

嫡出の否認(民法774条)

※現行の条文(改正前)

第七百七十四条 第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

条文のポイント

誰が否認できる? → 

何を否認できる? → 子が嫡出子であること

嫡出否認の条件  → 子が嫡出推定されること(772条の場合)

嫡出の否認ができるのは「夫」のみです。妻や子からはできません。また、否認ができる条件は、夫の子が嫡出推定される場合です。「推定されない嫡出子」や「推定の及ばない子」は嫡出推定されないため否認することはできません。前提として、嫡出推定される子供が生まれたけど「どうも自分の子じゃないな…」と思ったときに夫が嫡出を否認することができるということです。

さらに、嫡出を否認する方法ですが、下記の「嫡出否認の訴え」によります。

嫡出否認の訴え(民法775条)

※現行の条文(改正前)

第七百七十五条 前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

条文のポイント

訴える場所 → 家庭裁判所

訴える相手 → 「子」又は「親権を行う母」

親権を行う母がないとき → 相手は「特別代理人」になる

嫡出否認の訴えは、家庭裁判所に対して行い、訴える相手は「子」又は「親権を行う母」となります。

「親権を行う母」がない場合(親権停止など)は、子に「特別代理人」が選任されます。(ちなみに特別代理人は、親が子に利益相反行為をするときにも選任されます)

もし、夫が子の出生後に嫡出を承認すると否認権を失い、「嫡出否認の訴え」を提起することができなくなります(776条)ので、嫡出を承認していないことが条件です。また、子が死亡した場合も提起することができなくなります。

嫡出否認の訴えの出訴期間 

夫が子の出生を知った時から1年以内
夫が成年被後見人であるとき後見開始の審判の取消しがあった後、夫が子の出生を知った時から1年以内

出訴期間とは、訴えを提起できる期限のことです。

夫が制限行為能力者である「成年被後見人」であるときは、後見開始の審判を取り消され、成年被後見人ではなくなった後に訴えを提起することができます。

親子関係不存在確認の訴え

推定される嫡出子嫡出否認の訴え
推定されない嫡出子
推定の及ばない子
親子関係不存在の訴え

嫡出否認の訴えができない「推定されない嫡出子」「推定の及ばない子」に対しては、「親子関係不存在確認の訴え」を提起することができます。こちらは出訴期間はなく、利害関係人であれば誰でも提起可能です。

なお、「嫡出否認の訴え」「親子関係不存在確認の訴え」はいずれも調停前置主義がとられています。


ここからは令和6年改正後の内容となります。

嫡出の否認(民法774条)※令和6年改正

※令和6年改正後の条文

第七百七十四条 第七百七十二条の規定により子の父が定められる場合において、父又は子は、子が嫡出であることを否認することができる。

2 前項の規定による子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができる。

3 第一項に規定する場合において、母は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。

4 第七百七十二条第三項の規定により子の父が定められる場合において、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(以下「前夫」という。)は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。

5 前項規定による否認権を行使し、第七百七十二条第四項の規定により読み替えられた同条第三項の規定により新たに子の父と定められた者は、第一項の規定にかかわらず、子が自らの嫡出であることを否認することができない。

令和6年の改正で大幅に条文の内容が増加されました。

条文のポイント(1~3項)

嫡出否認できる者 → 父(変わらず)、子・母(追加)

子の否認権を子のために行使できる者 → 親権を行う母、親権を行う養親、未成年後見人

嫡出の否認権は「夫」だけの権利だったのが、「子」も行使できるようになり、「母」も行使することができるようになりました。(1項・3項)そもそも夫だけに権利があったのが不公平だったということでしょうか。

ただし、母の否認権は条件付きで、子の利益を害することが明らかなときは行使不可です。このように法律では子の権利や保護が優先されやすい傾向があります。

また、その「子」の否認権を、「親権を行う母」のほか「親権を行う養親」「未成年後見人」子のために行使することができるとなっています。(2項)

条文のポイント(4~5項)

条件付きで前夫も否認可能

前夫に否認された場合で新たに父と定められた者 → 嫡出否認不可 

「前夫」は、現在の夫の子の嫡出否認(自分の子であると主張する)ができます。ただし条件付きで、子の利益を害することが明らかなときは不可となっています。(4項)

5項については、わかりにくいですが、前夫が否認権を行使し、かつ、前夫が新たに父と定められた者となった場合は、1項による父としての嫡出否認はできないということのようです。

ちなみに、嫡出が否認された場合、否認された子は「父であった者が子の監護に要した費用」を償還する義務を負いません(778条の3)。これも子の権利や保護を優先するための規定と思われます。

嫡出否認の訴え(民法775条)※令和6年改正

※令和6年改正後の条文

第七百七十五条 次の各号に掲げる否認権は、それぞれ当該各号に定める者に対する嫡出否認の訴えによって行う。

一 父の否認権 子又は親権を行う母

二 子の否認権 父

三 母の否認権 父

四 前夫の否認権 父及び子又は親権を行う母

2 前項第一号又は第四号に掲げる否認権を親権を行う母に対し行使しようとする場合において、親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

嫡出否認の訴えの相手方(775条)と出訴期間(777条)を下記の表にまとめてみました。

主体相手出訴期間(3年以内
父の否認権子、又は親権を行う母父が子の出生を知った時から3年以内
子の否認権その出生の時から3年以内
母の否認権子の出生の時から3年以内
前夫の否認権父及び子、又は親権を行う母前夫が子の出生を知った時から3年以内

「親権を行う母」がないときは、家庭裁判所は「特別代理人」を選任しなければならない点は改正前と同様です。

出訴期間は1年以内から3年以内に変更されました。ただし、この出訴期間は原則で、次のような例外規定があります。

出訴期間の例外①(778条)

女が子を懐胎したときから子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたとき、その子は「その出生の直近の婚姻における夫の子と推定」されます。(772条3項)

しかし、「嫡出否認の裁判」で否認が確定した場合、777条規定にかかわらず出訴期間は次のようになります。

主体相手出訴期間(1年以内
新たに定められた父の否認権子、又は親権を行う母新たに子の父と定められた者が当該子に係る嫡出否認の裁判が確定したことを知った日から1年以内
子の否認権子が上記裁判が確定したことを知った日から1年以内
母の否認権母が上記裁判が確定したことを知った日から1年以内
前夫の否認権父及び子、又は親権を行う母前夫が上記裁判が確定したことを知った日から1年以内

出訴期間の例外②(778条の2)

さらに、条件によっては次のような出訴期間の例外も設けられました。

条件出訴期間
子に、777条2号・778条2号の期間満了前6か月以内の間に親権を行う母、親権を行う養親、未成年後見人がないとき①母・養親の親権停止の期間が満了
②親権喪失・親権停止の審判の取消しが確定もしくは親権が回復
③新たに養子縁組が成立又は未成年後見人が就職
上記①②③のいずれかの時から6か月経過するまで
子が、父と継続して同居した期間(当該期間が2以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回る原則:21歳に達するまで
例外:子の否認権の行使が父による養育状況に照らして父の利益を著しく害するときは提起不可
777条4号・778条4号の否認権(前夫の否認権)の行使に係る嫡出否認の訴え子が成年に達した後は、提起不可

親子関係不存在確認の訴え

「推定されない嫡出子」は嫡出推定されるようになったため、嫡出否認の訴えが可能です。「推定の及ばない子」は変わらず親子関係不存在確認の訴えによります。

嫡出の否認に関する重要判例

親子関係不存在確認の訴えの許否 H26.7.17

夫と民法772条により嫡出推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が現時点において妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても、親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできない。

※嫡出推定の規定は、DNA鑑定等により父子の生物学上の不一致が生ずることを容認している。そのため、嫡出否認の訴えによらなければならない。

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民法,親族法,実子

Posted by getter